マーティン・スコセッシ監督の映画的技巧が存分に発揮された、壮大な犯罪サーガ。60年にわたる彼のキャリアを哀愁たっぷりに総括する本作は、まさにその真髄を体現している。世間から見放された元殺し屋で組合のトラック運転手、フランク・シーラン（ロバート・デ・ニーロ）は、老人ホームで組織犯罪の世界で生きてきた自身の人生を振り返る。フィラデルフィアのマフィアのボス、ラッセル・ブファリーノ（ジョー・ペシ）との関わりから、全米トラック運転手組合のジミー・ホッファ（アル・パチーノ）との繋がり、そして彼を二者択一へと追い込んだ確執まで。 20世紀半ばのアメリカ史という壮大なキャンバスに大きく描かれた、忠誠と裏切りの親密な物語である『アイリッシュマン』（実際のシーランが作家チャールズ・ブラントに語った「I Heard You Paint Houses」の告白に基づく）は、監督の名人芸と、老い、死、人生を形作る決断や後悔についての非常に個人的な反芻をバランスよく取り入れた、独特の反省に満ちた晩年の傑作である。